名前を名前を名前を名前を

夏の匂いがしている。「夏の匂い」と一言に言うとどうやら詩的っぽい感じがするが、ここから「夏の匂い」から「真夏の匂い」に変化していくのが目に見えているのでうんざりしている。肌感覚、と言ってしまうのが一般的に正しいのだろうけど、外に出て、外の空気を吸って、いの一番に季節の違いを訴えてくるのが嗅覚なので、季節の違いを表すとしたらあたしの場合は「匂い」だ。明確にどこ、とはいえないけれど、夏の雨の匂いと冬の雨の匂いは全然違うし、梅雨の時期の匂いとそれ以外の雨の匂いとでは全然違う。感覚の話でしかないけれど。季節の中で一番好きなのが、冬から春に渡る時の晴れの日なんだけれど、あの「一年の余り」みたいな、ぽかんとした何もなさ、みたいな。言葉にして説明しようとすると難しい。あっけなくてやがて4月が始まってしまう。もう5月も終盤なのに3月の終わりに想いを馳せている。

例えば、神様がいたとして、あなたの望む一つを何でも与えてあげましょう、といきなり言われたとして、その条件を神様に重箱の隅を突くように説明したり、決定の期日をやたらめったらに伸ばしたりして、神様の気まぐれを逃しては安心するような、あたしはそんな人間だ。あたしは極端に何かを決める事を怖れている人間だと思うけれど、多かれ少なかれ人間は何か決める事に精神力を使っていると思う。ファミレスのメニュー、クリスマスに買ってもらうプレゼント、どの車を買うか、あたしはひとつだって決められなかったし、そのひとつひとつ後悔して、もうあたしの選択なんて全部間違っているのだ、と思ってしまうのだ。もうあたしはあたし自身の事を決めてしまうのが怖くてたまらない。「あなた自身の事はあなた自身でしか決められない」なんて言ってないであたしの人生の責任を誰かにおっ被せてしまいたい。占い師とかでいいので誰か決めてくれ。

名前が欲しい。あたしの立場を社会的にナチュラルな形で説明できる何かの名前。あなたとの関係を形容する名前。曖昧なままで不安になりたくない。毎日不安でゲロ吐いてるからあなたが決めてくれ。

※主語を「あたし」にする事で自分の中の女々しさを更に引っ張り出そうとしている